大阪地方裁判所 平成2年(ワ)7050号 判決 1993年6月29日
静岡県掛川市城西一丁目一五番一〇号
原告
株式会社内山商会
右代表者代表取締役
内山隆
右訴訟代理人弁護士
金澤恭男
右輔佐人弁理士
箕浦清
大阪市中央区島之内一丁目八番一四号
被告
鳥居金属興業株式会社
右代表者代表取締役
鳥居博一
右訴訟代理人弁護士
中嶋邦明
同
柳村幸宏
同
増田勝久
同
松田成治
右輔佐人弁理士
鎌田文二
同
東尾正博
同
鳥居和久
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は別紙イ号物件目録ないし同ホ号物件目録記載の車両用ブリッジを製造、販売及び頒布してはならない。
二 被告は原告に対し、金一億五四〇〇万円及びこれに対する平成二年一〇月三日(訴状送達日の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 原告の意匠権(争いがない)
1 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)を有している。
(一) 出願日 昭和五三年九月一三日
(二) 登録日 昭和五五年七月二五日
(三) 登録番号 第五四〇五四九号
(四) 意匠に係る物品 車両用ブリッジ
(五) 登録意匠 別紙意匠公報(1)(以下「公報(1)」という。)掲載のとおり
2 本件登録意匠には、次の類似意匠(以下「本件類似意匠」という。)が登録されている。
(一) 出願日 昭和六三年八月二五日
(二) 登録日 平成二年一月三一日
(三) 登録番号 第五四〇五四九号の類似1
(四) 意匠に係る物品 車両用ブリッジ
(五) 登録意匠 別紙意匠公報(2)(以下「公報(2)」という。)掲載のとおり
二 本件登録意匠の構成(甲一の2、一三、検甲一の2)本件登録意匠は、次のとおり分説するのが相当である。
1 基本的構成態様
二本のフレームを等間隔に配置したフレーム部と、その間に各フレームに垂直に当接するステップ板を複数枚所定間隔で架け渡したステップ板部とからなる。
2 具体的構成態様
A フレーム部は、
Ⅰ 各フレームの横方向(フレームの長さ方向に対し直交する方向、以下同じ)の断面形状が略コ字形を呈し、
Ⅱ 各フレームには、コ字形開口部が外側を向いて、内側には正面視上下幅(以下「上下」とは正面視におけるものをいう。)の略中央部まで垂直壁、その上部は大部分外側への斜面壁、続いて少し垂直壁が対向するように設けられており、
Ⅲ 各フレームの縦方向(フレームの長さ方向、以下同じ)の両端部は、フレームが漸次細くなるように傾斜する斜面が形成され、各フレームの縦方向の一方端の下面には、正面視L字形の細幅のフックが付加され、
Ⅳ 中央部で縦方向に二分割され、ヒンジ板によって折り畳み可能になっており、
Ⅴ 中央部と両端の中間位置外側に折り畳み可能なコ字形持手が一個ずつ合計四個設けられている。
B 各フレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる細幅帯状の突出壁が形成され、この突出壁の上にステップ板が載置され、両端部の各ステップ板は外側に低く傾斜面となっている。
C ステップ板は、上面壁とその下部に横方向に設けられた、それぞれの断面視形状が外側に大きく傾斜したL字形、上下逆T字形、外側に大きく傾斜した左右逆L字形の合計三つの脚片(両端ステップ板のみは上下逆T字形脚片二つ)とからなる。
D ステップ板上面壁の表面には、
Ⅰ 上面壁を縦方向に二つに区画するように、縦方向の両側縁とその中央に突条が設けられ、
Ⅱ 突条によって区画された二つの区画面の縦方向の幅は同一であり、
Ⅲ 突条によって区画された一方の区画面には、横方向の中央部分に、平面視及び底面視三角形、概観三角錐状の突起(以下、単に「三角錐状突起」という。)が、二つ宛てを一組として横に並んで形成配置され、他方の区画面には、一方の区画面に形成された三角錐状突起の位置を挟むように、二つ宛てを一組とした三角錐状突起が横方向の両端寄りに横に並んで形成配置されている。
EⅠ 平面視におけるステップ板上面壁の縦方向の幅と横方向の幅の比率(以下、特に注記しない限り比率に言及する場合は平面視における幅の比率をいう。)は約一対一・八二であり、
Ⅱ ステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率は約一対〇・九一であり、
Ⅲ ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの横方向の幅の比率及び右ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの上下の幅の比率は、前者が約一対〇・二五、後者が約一対〇・五である。
三 被告の行為(争いがない)
被告は、昭和六〇年三月頃から、業として、別紙イ号物件目録ないし同ホ号物件目録記載の車両用ブリッジ(以下、順次「イ号物件」、「ロ号物件」、「ハ号物件」、「ニ号物件」及び「ホ号物件」といい、右各物件をまとめて「被告製品」という。)を製造、販売及び頒布している。
四 被告製品の意匠の構成(別紙イ号物件目録ないし同ホ号物件目録、検乙一)
1 イ号物件の意匠
イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という。)は、次のとおり分説するのが相当である。
(一) 基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様に同じ。
(二)具体的構成態様
a フレーム部は、
Ⅰ 横方向の断面形状が略コ字形を呈し、
Ⅱ 各フレームには、コ字形開口部が外側を向いて垂直壁が対向するように設けられており、
Ⅲ 各フレームの縦方向の両端部の上面にはフレームが漸次細くなるように傾斜する斜面が形成され、両端部の下面の一方には正背面視肉薄の長方形の小片が、他方には正面視L字形の太幅のフックがそれぞれ付加されている。
b 各フレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる細幅帯状の突出壁が形成され、この突出壁の上にステップ板が載置され、縦方向の両端部の各ステップ板は外側に低く傾斜面となっている。
c ステップ板は、上面壁とその下部に横方向に設けられた、それぞれの断面視形状が外側に小さく傾斜したL字形、上下逆T字形、外側に小さく傾斜した左右逆L字形の合計三つの脚片(両端ステップ板のみは外側に小さく傾斜したL字形脚片一つ、上下逆T字形脚片二つ、左右逆L字形脚片一つ)とからなる。
d ステップ板上面壁の表面には、
Ⅰ 上面壁を縦方向に三つに区画するように、縦方向の両側縁に各一本と更にその間に二本の合計四本の突条が設けられ(両端部を除く。)、
Ⅱ 突条によって区画された三つの区画面の縦方向の幅はいずれも同一であり(両端部を除く。)、
Ⅲ 突条によって区画された三つの区画面のうち、両端区画面に、概観して円錐台を底面に垂直に二等分したその半分とでも形容すべき突起(以下「略三角形状突起」という。)が二つそれぞれ形成され、中央の区画面には突起は形成されてはおらず、両端区画面に設けられた略三角形状突起は互いに離れた位置にあり、一方の区画面に設けられた突起と突起の間に、他方の区画面の突起が位置し、結局四つの突起が全体としては横方向に略等間隔で位置しており、両端部ステップ板の区画面はその余のステップ板の区画面より細幅であり、そこにはすべて突起が設けられていない。
eⅠ ステップ板上面壁の縦方向の幅と横方向の幅の比率は約一対一・六七であり、
Ⅱ ステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率は、約一対〇・二九であり、
Ⅲ ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの横方向の幅の比率及び右ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの上下の幅の比率は、前者が約一対〇・〇八、後者が約一対〇・二一である。
2 ロ号物件の意匠
ロ号物件の意匠(以下「ロ号意匠」という。)は、次のとおり分説するのが相当である。
(一) 基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様に同じ。
(二) 具体的構成態様
aⅠ イ号意匠の具体的構成態様aⅠに同じ。
Ⅱ イ号意匠の具体的構成態様aⅡに同じ。
Ⅲ イ号意匠の具体的構成態様aⅢに同じ。
b イ号意匠の具体的構成態様bに同じ。
c イ号意匠の具体的構成態様cに同じ。
dⅠ イ号意匠の具体的構成態様dⅠに同じ。
Ⅱ イ号意匠の具体的構成態様dⅡに同じ。
Ⅲ 両端区画面の一方に略三角形状の突起が三つ設けられており、結局五つの突起全体としては横方向に略等間隔で位置している外は、イ号意匠の具体的構成態様dⅢに同じ。
eⅠ ステップ板上面壁の縦方向の幅と横方向の幅の比率は約一対二・〇〇であり、
Ⅱ ステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率は、約一対〇・二九であり、
Ⅲ ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの横方向の幅の比率及び右ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの上下の幅の比率は、前者が約一対〇・〇七、後者が約一対〇・一九である。
3 ハ号物件の意匠
ハ号物件の意匠(以下「ハ号意匠」という。)は、次のとおり分説するのが相当である。
(一) 基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様に同じ。
(二) 具体的構成態様
aⅠ イ号意匠の具体的構成態様aⅠに同じ。
Ⅱ イ号意匠の具体的構成態様aⅡに同じ。
Ⅲ イ号意匠の具体的構成態様aⅢに同じ。
Ⅳ 一方のフレーム外側中央部に固定されたコ字形持手が一個設けられている。
b イ号意匠の具体的構成態様bに同じ。
c イ号意匠の具体的構成態様cに同じ。
dⅠ イ号意匠の具体的構成態様dⅠに同じ。
Ⅱ 突条によって区画された三つの区画面の縦方向の幅は、中央の区画面の幅が両端区画面の幅よりも狭い(約三分の一)。
Ⅲ 両端部ステップ板の区画面の幅が右Ⅱ項の両区画面の幅のほぼ中間位の幅となる外は、ロ号意匠の具体的構成態様dⅢに同じ。
eⅠ ステップ板上面壁の縦方向の幅と横方向の幅の比率は約一対二・七五であり、
Ⅱ ステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率は、約一対〇・一九であり、
Ⅲ ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの横方向の幅の比率及び右ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの上下の幅の比率は、前者が約一対〇・一一、後者が約一対〇・二〇である。
4 ニ号物件の意匠
ニ号物件の意匠(以下「ニ号意匠」という。)は、次のとおり分説するのが相当である。
(一) 基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様に同じ。
(二) 具体的構成態様
aⅠ イ号意匠の具体的構成態様aIに同じ。
Ⅱ イ号意匠の具体的構成態様aⅡに同じ。
Ⅲ イ号意匠の具体的構成態様aⅢに同じ。
Ⅳ ハ号意匠の具体的構成態様aⅣに同じ。
b イ号意匠の具体的構成態様bに同じ。
c イ号意匠の具体的構成態様cに同じ。
dⅠ イ号意匠の具体的構成態様dIに同じ。
Ⅱ ロ号意匠の具体的構成態様dⅡに同じ。
Ⅲ ハ号意匠の具体的構成態様dⅢに同じ。
eⅠ ステップ板上面壁の縦方向の幅と横方向の幅の比率は約一対三・三八であり、
Ⅱ ステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率は、約一対〇・一三であり、
Ⅲ ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの横方向の幅の比率及び右ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの上下の幅の比率は、前者が約一対〇・〇九、後者が約一対〇・二二である。
5 ホ号物件の意匠
ホ号物件の意匠(以下「ホ号意匠」という。)は、次のとおり分説するのが相当である。
(一) 基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様に同じ。
(二) 具体的構成態様
aⅠ イ号意匠の具体的構成態様aIに同じ。
Ⅱ イ号意匠の具体的構成態様aⅡに同じ。
Ⅲ イ号意匠の具体的構成態様aⅢに同じ。
Ⅳ ハ号意匠の具体的構成態様aⅣに同じ。
b イ号意匠の具体的構成態様bに同じ。
c ステップ板は、上面壁とその下部に横方向に設けられた、断面視形状上下逆T字形脚片三つ(両端のみは上下逆T字形脚片三つ、左右逆L字形脚片二つ)からなる。
dⅠ イ号意匠の具体的構成態様dIに同じ。
Ⅱ 突条によって区画された三つの区画面の縦方向の幅は、中央の区画面の幅が両端側の区画面の幅よりも狭い(約二分の一)。
Ⅲ 両端部ステップ板の幅が右Ⅱ項の広い方の区画面の幅とほぼ同じとなる外は、ロ号意匠の具体的構成態様dⅢに同じ。
eⅠ ステップ板上面壁の縦方向の幅と横方向の幅の比率は約一対四・一七であり、
Ⅱ ステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率は、約一対〇・一七であり、
Ⅲ ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの横方向の幅の比率及び右ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの上下の幅の比率は、前者が約一対〇・一二、後者が約一対〇・二三である。
五 本訴請求の概要
イ号意匠ないしホ号意匠(以下、これらをまとめて「被告意匠」という。)が本件登録意匠に類似することを理由に、被告に対し、被告製品の製造、販売及び頒布の停止と被告が得た利益額一億五四〇〇万円相当の損害賠償金等の支払を求める。
六 主な争点
1 被告意匠は本件登録意匠に類似するか否か。
2 前項が肯定された場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害の金額
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告意匠は本件登録意匠に類似するか否か)
1 原告主張
(一) 本件登録意匠の要部
本件登録意匠に係る物品は車両用ブリッジであり、その形状は、物品の用途と実用的機能に由来して、必然的に二本のフレームの間にフレームに垂直に当接するステップ板を複数枚架け渡した梯子形形状にならざるを得ない。したがって、本件登録意匠の基本的構成態様である梯子形の全体形状は、ありふれた周知の形状であり、特に看者の注意を惹く部分ではない。これに対し、本件登録意匠の具体的構成態様のうち、三本の突条と三角錐状突起を設けたステップ板上面壁の形状は、本件登録意匠の最も特徴的な部分であり、特に三角錐状突起は、本件登録意匠においてはじめて採用された独創的な構成であって、本件登録意匠は、この突起の形状に創作性があるからこそ登録査定されたのである。そのことは、ステップ板上面壁に突起を設けている他の登録済みの周辺関連意匠においては、突起の平面視若しくは底面視形状が、<1>楕円形(意匠公報第四七四七七八号〔昭和五三年五月一七日発行・甲六の1〕に示された農耕用トラクターの架橋の意匠、意匠公報第四七四七八〇号〔昭和五三年五月一七日発行・甲六の2〕に示された農耕用トラクターの架橋の意匠、意匠公報第四七四七八〇号の類似3〔昭和五三年七月一二日発行・甲六の3〕に示された農耕用トラクターの架橋の意匠)、<2>円形(意匠公報第四九〇四七八号〔昭和五三年一二月一五日発行・甲六の4〕に示された折り畳みブリッジの意匠、意匠公報第四九〇四七九号〔昭和五三年一二月一五日発行・甲六の5〕に示された折り畳みブリッジの意匠)及び<3>正方形(意匠公報第四九〇四七八号の類似1〔昭和五四年一二月六日発行・甲六の6〕に示された折り畳みブリッジの意匠)というように、本件登録意匠の突起形状とは大きく異なっているのに対し、それ以外の部分の具体的構成態様はいずれも殆ど大同小異であることに照しても明らかである。しかして、本件登録意匠のこの三角錐状突起部分は、個々の突起が、ステップ板上面壁の表面において、山状に隆起し底面部が開口するように形成されると同時に、全体としてそれらの先端頂点部分がいずれも縦方向の一方向きに揃って正確に配列され、逆に底面部分がいずれも反対向きに揃って正確に配列され、ステップ板上面壁の全面にわたって左右交互に一定のジグザグ状の模様を描いて分散配列されている。その結果、使用時には、三角錐状突起の開口部分を車台等の高位側、反対方向を接地点等の低位側にそれぞれ向け、低位側と高位側との間にブリッジを架け渡すことにより、三本の突条構成と相まってステップ板上を昇降する車両の装着しているタイヤ等が、それらの突起及び突条に係合し、車台等の高位側から地面等の低位側に向かって傾斜設置されている、ブリッジの下り斜面勾配に対して有効な滑り止め効果と泥落とし効果を発揮するのである。そして、この種物品の需要者・取引者の最大の関心は、車両をブリッジ上でスリップさせずにいかに安全かつ確実に昇降させることができるかの点に集中するから、需要者・取引者は、物品の購買に際し、昇降車両のタイヤ等が接するステップ板上面壁の具体的構成態様に最も注意を集中させ、これを入念に観察して吟味選択することになるのであるのであって、その部分に本件登録意匠の特徴が現れることは明らかである。
そこで、ステップ板上面壁の具体的構成態様の特徴点を更に詳細にみると、それは次のとおりである。すなわち、
イ ステップ板は、縦方向の両側縁と中央にそれぞれ突条を設け、それら三本の突条により二つの区画面を形成し、二枚一組を隣接して組み合わせたダブルタイプ状としている。
ロ 三角錐状突起は、ステップ板上面壁の表面におけるその形状を全体的にみると、二つ宛てを一組として、多数が縦方向に平行に、かつ、二つの区画面の両側にわたって左右交互に、しかも、それらが全幅にわたって等間隔に千鳥格子状に配列されている。
ハ 三角錐状突起は、ステップ板上面壁の表面におけるその形状を個別的にみると、切込みが下面側から上面側に向かって山状に隆起開口し、一方の側で底面部を、他方の側で先端部をそれぞれ形成することにより、全体として立体的な三角錐状形状が形成されている。
ニ 三角錐状突起は、ステップ板上面壁の下面における形状をみると、個別的には上面の三角錐状突起の凸状形状を裏返しにした凹状形状が形成され、全体的にみると、凹状形状を二つ宛て一組として、多数が縦方向に平行に、かつ、二つの区画面の両側にわたって左右交互に、しかも、それらが全幅にわたって等間隔に千鳥格子状に配列されていることにより、通常は単なる平坦面で変化に乏しい印象しか与えないステップ板下面壁側にも上面壁側類似の独特の意匠感を与えている。以上によれば、本件登録意匠の要部は、ステップ板の、イ(二枚一組としたダブルタイプ状の隣接組み合わせ態様)、ロ(上面壁表面における全体の突起配列が形成する千鳥格子模様)、ハ(上面壁表面における個別突起の三角錐形状)、ニ(下面壁におけるロ・ハに対応した全体の凹状配列が形成する千鳥格子模様及び個別凹状の三角錐形状)の部分にあるものというべきである。
この点について、被告は、意匠公報の掲載図面(公報(1)平面図及び底面図)に基づいて、三角錐状突起は、本件登録意匠全体の大きさに比べると、点程度の大きさにしか視認できない極めて微小な部分であるから、看者の注意を惹くものではない旨主張する。しかし、それは意匠公報に図面を掲載する際の縮尺表示上の制約のためであり、本来、登録意匠の範囲は、意匠公報掲載の図面ではなく、願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基いて定めなければならないところ(意匠法二四条)、意匠登録出願願書に添付された図面(甲一三)中の平面図及び底面図によれば、本件登録意匠の三角錐状突起は、意匠全体の大きさと対比しても、十分顕著に視認できる大きさに図示されているから、右被告主張は失当である。
また、被告は、フレームの太さ(幅)、ステップ板上面壁の縦横の寸法比率等の部分的形状に本件登録意匠の要部があるかのように主張するが、それらの個別具体的な製品仕様は、いずれも需要者・取引者において使用に際し、車両用ブリッジ上を昇降する対象車両の車種、タイヤ径及びタイヤ幅等を勘案して適宜取捨選択するものであり、それらは基本的構成態様である梯子形の全体形状に付随する付加的な構成に過ぎず、それによって全体的な審美性に格別顕著な差異を生じさせるものではないから、被告意匠と本件登録意匠との間に、それらの部分について形状の微差があるからといって、彼我の意匠感に決定的な違いをもたらすものとはいえない。したがって、右被告主張も失当である。
(二) 被告意匠と本件登録意匠の類否
そこで、本件登録意匠の要部イないしニについて、被告意匠と本件登録意匠を全体として対比観察するに、被告意匠は、(イ)ステップ板は、二枚一組を隣接して組み合わせたダブルタイプ状としている点、(ロ)三角錐状突起は、ステップ板上面壁の表面におけるその形状を全体的にみると、多数が縦方向に平行に、かつ、左右交互に、しかも、それらが全幅にわたって等間隔に千鳥格子状に配列されている点、(ハ)三角錐状突起は、ステップ板上面壁の表面におけるその形状を個別的にみると、切込みが下面壁側から上面壁側に向かって山状に隆起開口し、一方の側で底面部を、他方の側で先端部をそれぞれ形成することにより、全体として立体的な三角錐状形状が形成されている点、(ニ)三角錐状突起は、ステップ板下面壁における形状をみると、個別的には上面壁の三角錐状突起の凸状形状を裏返しにした凹状形状が形成され、全体的にみると、凹状形状を二つ宛て一組として、多数がブリッジの長手方向に平行に、かつ、二つの区画面の両側にわたって左右交互に、しかも、それらが全幅にわたって等間隔に千鳥格子状に配列されていることにより、通常は単なる平坦面で変化に乏しい印象しか与えないステップ板下面壁側にも上面壁側類似の独特の意匠感を与えている点で共通している。もっとも、両意匠は、<1>ステップ板上面壁において、本来下部の中央脚片に対応して中央に一本だけ設けられるのが自然である突条をわさわざ無意味に二分して、合計四本の突条により三つの区画面を形成している点、<2>三角錐状突起の配列において二つ宛て一組の千鳥格子状配列を一つ宛ての千鳥格子状配列としている点では相違しているけれども、意匠全体について比較すれば、右(イ)ないし(ニ)記載の共通点が看者の注意を惹き、右<1>及び<2>の相違点は部分的微差にとどまるので、被告意匠は本件登録意匠に類似するものである。
2 被告主張
(一) 本件登録意匠の要部
(1) 本件登録意匠の基本的構成態様、すなわち二本のフレームを等間隔で配置したフレーム部と、フレーム間にフレームに対し垂直方向に当接するステップ板を複数枚所定間隔で架け渡したステップ板部とからなる構成は、本件登録意匠出願前の公知意匠(昭和五三年四月二八日発行意匠公報第四七三八四七号〔甲七の1〕掲載の車輌用道板の意匠)にもみられる構成であり、本件登録意匠の特徴的部分ではない。
(2) 本件登録意匠の具体的構成態様Aのうち、フレーム部が中央部で縦方向に二分割され、ヒンジ板によって折り畳み可能になっている点(構成Ⅳ)は、前記公知意匠とは相違するが、フレーム部を折り畳み可能に構成することは、この種物品においては普通にみられるものであり、また、フレーム部を折り畳み可能に構成していない意匠が本件登録意匠の類似意匠として登録されているから、この点は本件登録意匠の特徴的部分ではない。
(3) 本件登録意匠の具体的構成態様Bは、前記公知意匠(第四七三八四七号意匠)にもみられる構成であるから、本件登録意匠の特徴的部分ではない。
(4) 本件登録意匠の具体的構成態様Cは、上面壁の下部に脚片を設けてステップ板を補強している点は前記公知意匠(第四七三八四七号意匠)と同じであり、本件登録意匠の場合、脚片の数が前記公知意匠のそれよりも一本多いが、この点は看者の目につきにくい部分における相違点であるので、本件登録意匠の特徴的部分ではない。
(5) 本件登録意匠の具体的構成態様Dは、ステップ板を上面壁側から見た構成であり、前記公知意匠(第四七三八四七号意匠)にはみられない独自の構成である。すなわち、ステップ板上面壁の縦方向の両側縁部に突条を設けている点において、本件登録意匠は前記公知意匠と共通性を有するが、前記公知意匠では両側縁の突条間が平坦な一平面になっているのに対し、本件登録意匠の場合は、両側縁部の突条の中央に更に別の突条を形成して、上面壁を縦方向に二つの面に区画し、さらにこのように二つに区画した一方の区画面の中央部分に、小さな三角錐状突起を二つ横方向に近接するように並べて配置し、他方の区画面に、一方の区画面に形成した二つ宛て一組の小さな三角錐状突起の位置を挟むように、二つ宛て一組の小さな三角錐状突起を両側縁部寄りに並べている。
このような、ステップ板上面壁を二つの面に区画し、そこにそれ自体はありふれた形状の三角錐状突起を二つ宛て一組になるように近接して配置した構成は、前記公知意匠にはみられない構成であるとともに、平面視した場合、見る者に強い印象を与える特徴的な部分である。また、この点は、本件類似意匠にも共通する構成でもある。したがって、本件登録意匠の構成態様Dはその要部である。
原告は、本件登録意匠の構成態様Dのうち、ステップ板上面壁に形成されている小さな三角錐状突起の具体的形状に本件登録意匠の要部があるかのように主張するが、三角錐状突起それ自体は、本件登録意匠全体の大きさに比べると、点程度の大きさにしか視認できない極めて微小な部分であるから、看者の注意を惹くものではなく、原告主張は失当である。
(6) 本件登録意匠の具体的構成態様Eは、意匠全体の形態を決定するものであり、意匠を全体的に観察する上で重要な構成要素である。すなわち、ステップ板上面壁の縦横の幅の比率及びステップ板相互の間隔は、その差異によって製品の全体強度や通行の難易も違って見えることになるから、看者に対してそれらの点を印象づける構成要素であり、具体的構成態様Dと相まってその特徴的部分(要部)ということができる。
(二) 本件登録意匠と被告意匠の対比
(相違点)
本件登録意匠と被告意匠は、要部である具体的構成態様D・Eに関して次の点で相違している。
(1) ステップ板上面壁が、突条によって、本件登録意匠では二つの面に区画されているのに対し、被告意匠では三つの面に区画されている。
(2) 本件登録意匠では、ステップ板上面壁の二つの区画面に、それぞれ三角錐状突起を二つ宛てを一組になるように近接して配置しているのに対し、被告意匠では、三つの区画面のうちの両端の区画面にのみ、略三角形状突起を配置し、中央の区画面には突起を配置しないで、突起のある区画面と突起のない区画面ができるように組み合わせており、また突起のある区画面でも略三角形状突起は横方向に離れた位置に配置されている。
(3) 本件登録意匠では、すべてのステップ板上面壁に同一パターンで三角錐状突起が配置され、全部のステップ板上面壁が平面視おいて同一態様に構成されているのに対し、被告意匠では、両端部に位置するステップ板上面壁には突起が設けられておらず、突起のあるステップ板上面壁と突起のないステップ板上面壁を組み合わせている。
(4) ステップ板上面壁の縦横の幅の比率は、本件登録意匠では約三対四で、全体としてその形状は長方形というよりも正方形に近い印象を与えるのに対し、被告意匠のステップ板上面壁の縦横の寸法比率は約三対五から約三対一〇と、横幅が縦幅よりも約二倍程度と長く、本件登録意匠に比べ横長の長方形の印象を与える。
(5) ステップ板相互の間隔は、本件登録意匠では、ステップ板上面壁の縦方向の幅と略同じであるのに対し、被告意匠では、ステップ板上面壁の縦方向の幅の約三分の一から約五分の一であり、被告意匠の方がかなり間隔の狭い印象を与える。
(類否についての結論)
本件登録意匠と被告意匠との間には、要部である具体的構成態様D・Eに関して右(1)ないし(5)の差異があるため、両意匠は、全体観察したときに生ずる美感を明らかに異にし、別異の印象を与える。すなわち、本件登録意匠のブリッジは、全体的に細幅でステップ板相互の間隔がかなり広く、車両や人が通行する際、看者に対しステップ板相互間の空隙に車輪が嵌入する、あるいは人間が誤って足を踏み入れるなどの不安感を与える。また、本件登録意匠のステップ板上面壁に設けられた三角錐状突起は、横方向に二つ宛てを一組に近接して配置され、かつ、ステップ板相互の間隔が広いので、全体として所定間隔で二つ宛てを一組とした群がかたまって配置されているような印象を与えている。
これに対し、被告意匠は、全体として見た場合、本件登録意匠よりも横幅が広いため、ゆったりとした印象を与え、ステップ板相互の間隔も本件登録意匠よりもかなり狭いため、車両や人間が通行する際、ステップ板相互間の空隙に車輪が嵌入する、あるいは人間が誤って足を踏み入れるといった不安感を与えない。また、ステップ板上面壁を三つの面に区画し、一つの区画面の縦方向の幅と、ステップ板相互の間隔が略同一になっているので、全体として、平行な二本のフレーム間を縦方向に均等に分割しているような印象を与える。そして、ステップ板上面壁に設けられた略三角形状突起は、三つに区画した上面壁の両側の区画面にのみ設けられ、しかも、それらは横方向に離れた位置に配置され、かつ、ステップ板相互の間隔が一つの区画面の幅と略同一になっているので、略三角形状突起がステップ板上面壁の全体に均一に散らばっているように見え、その印象は、両端のステップ板上面壁に略三角形状突起が全く配置されていないことによってさらに強められている。
以上のとおり、全体観察をしたときに、被告意匠は、本件登録意匠とは著しく異なる印象を与えるから、本件登録意匠とは非類似である。
二 争点2(損害賠償金額)
(原告の主張)
被告は、昭和六〇年三月頃から平成二年八月末日までの間に、本件意匠権を侵害するものであることを知り又は過失によりこれを知らないで、被告製品を合計二二万本製造販売したが、その代金額は二二億円を下らず、これにより被告が得た利益額は少なくとも一億五四〇〇万円以上になる。したがって、被告は、原告に対し、意匠法三九条に基づき、右利益額相当の損害賠償金を支払う義務がある。
第四 争点に対する判断
【争点1(被告意匠は本件登録意匠に類似するか否か)】
一 両意匠の対比
本件登録意匠と被告意匠は、いずれも車両用ブリッジに係るものであって、前記(第二、二・四)のとおりの構成を有するものであり、この両意匠を対比すると、その基本的構成態様において一致し、具体的構成態様において、各フレームの横方向の断面形状が略コ字形を呈し、各フレームには、コ字形開口部が外側を向いて垂直壁が対向するように設けられており、各フレームの縦方向の両端部は、フレームが漸次細くなるように傾斜する斜面が形成され、各フレームの縦方向の一方端の下面にL字形のフックが付加されている点、各フレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる細幅帯状の突出壁が形成され、この突出壁の上にステップ板が載置され、両端の各ステップ板は外側に低く傾斜面となっている点、ステップ板は、上面壁とその下部に横方向に設けられた、それぞれの断面視形状がL字形、上下逆T字形、左右逆L字形の合計三つの脚片(両端ステップ板を除く。)とからなる点、縦方向の両側縁に突条が設けられている外、ステップ板上面壁の表面には、上面壁を縦方向に区画するような突条が設けられ、上面壁に突起が形成されている点で一致しているが、<1>フレーム部内側について、本件登録意匠では、フレーム内側の垂直壁が上下幅の略中央部までしかなく、それより上は大部分外側への斜面壁となり、続いて少し垂直壁となっているのに対し、被告意匠ではすべて垂直壁となっており、被告意匠の方が簡素な印象を受ける点、<2>フレーム全体について、本件登録意匠では、中央部で縦方向に二分割され、ヒンジ板によって折り畳み可能になっており、中央部と両端の中間位置外側に折り畳み可能のコ字形持手が一個ずつ合計四個設けられているのに対し、被告意匠ではフレームは折り畳み可能となっておらず、イ号及びロ号意匠にはコ字形持手が全く設けられておらず、ハ号ないしニ号意匠ではコ字形持手があるけれども片側にのみ一個固定して設けられている点、<3>ステップ板上面壁の突条について、本件登録意匠では、上面壁を縦方向に二つの面に区画するように、縦方向の両側縁とその中央に突条が設けられているのに対し、被告意匠では、上面壁を縦方向に三つの面に区画するように、縦方向の両側縁に各一本とその間に二本の合計四本の突条が設けられている点、<4>ステップ板上面壁の突起について、本件登録意匠では、突条によって区画された一方の区画面には、横方向の中央部分に、三角錐状突起が、二つ宛てを一組として横に並んで形成配置され、他方の区画面には、一方の区画面に形成された三角錐状突起の位置を挟むように、二つ宛てを一組とした三角錐状突起が横方向の両端寄りに横に並んで配置されているのに対し、被告意匠では、突条によって区画された三つの区画面のうち、両端区画面には、一方の区画面には二つ(イ号意匠)又は三つ(ロ~ホ号意匠)の略三角形状突起が、他方の区画面には二つの略三角形状突起がそれぞれ形成され、中央の区画面には突起は形成されてはおらず、両端区画面に設けられた略三角形状突起は互いに離れた位置にあり、結局四つの突起が全体としては横方向に略等間隔で位置している点、また、突起の形状が、本件登録意匠では明確な三角錐状をし、角張った感じを与えるのに対し、被告意匠では円錐台を底面に垂直に
二等分したものとでも形容するほかないあいまいな形状で柔らかい感じを与えるものである点、<5> ステップ板相互間の間隔(空間部分)等使用上の安定感等において、A ステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率が、本件登録意匠では約一対〇・九一であり、空間部分の幅が広いため車輪径の小さい車両や人の通行には安全上の不安が感じられるのに対し、被告意匠では約一対〇・一三~〇・二九であり、空間部分の幅が狭いため車輪径の小さい車両や人の通行にも適している点(被告製品のパンフレットにも「アンチスリップ歩行用」〔甲四〕とか「M・歩行型」〔甲五〕とか付記してこの点を強調している。)、B ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの横方向の幅の比率及び右ステップ板上面壁の横方向の幅とフレームの上下の幅の比率が、本件登録意匠では前者が約一対〇・二五、後者が約一対〇・五であり、ステップ板上面壁の幅に比しかなり太いフレームを用いており重量物の通行にも耐え得る頑丈さを備えているとの印象を受けるのに対し、被告意匠では前者が約一対〇・〇七~〇・一二、後者が約一対〇・一九~〇・二三であり、フレームが小さく軽便という印象を受ける点、<6> フレーム両端部のダブルタイプ状のステップ板において、本件登録意匠では突起が他のステップ板の組み合わせと同様に形成されているのに対し、被告意匠ではこれが全く形成されていない点、等に差異がある(甲一の2・3、四、五、八、一一の1~7、一二の1~5、検甲一の1・2、乙三~六、検乙一、この各1・2)。
二 意匠の要部
車両用ブリッジは、自動車等の車両及び建設機械、農耕機等の各種作業用機械(以下、両者をまとめて「車両」という。)の積み降ろし用道板として、自動車の後部荷台等の高所側に対して道板上面壁部分(フレーム及びステップ板上面壁部分)が正面を向く態様で設置し、地面等の低地側平面と後部荷台等の高所側平面との間を架橋し、その上を車両や人間が昇降するために使用されるものであり、その需要者・取引者は、主として右車両積み降ろし作業に携わる運送業者、建設工事業者及び農耕作業従事者等である。したがって、このような車両用ブリッジの用途及び使用態様に照すと、車両用ブリッジにおいて、需要者・取引者の注意を最も惹く部分は、作業者及び昇降車両の安全性にかかわる部分の形状であることは当然である。具体的にいうならば、車両用ブリッジは、その上を車両や作業者が通行するためのものであるから、それの需要者・取引者は、フレーム及びステップ板の形状の堅牢性・安全性に専ら関心を注ぎ、その機能的構成美を考慮し、外観全体に着眼しつつ物品を吟味し選択するものと考えることができる。このことは、車両用ブリッジのカタログ、パンフレット等(甲二~五、乙一)において、道板上面壁部分を上方から俯瞰した写真や図面が掲載されるのが通常であることからも明らかである。したがって、本件登録意匠と被告意匠の要部は、使用時において車両の積み降ろし作業に携わる人間の目につきやすく、意匠全体の支配的部分を占め、意匠的まとまりを形成している道板上面壁部分、すなわち公報(1)(2)及び別紙イ号物件目録ないし同ホ号物件目録の添付図面の各平面図にみられるような、フレーム及びステップ板上面壁を上(平面視点付近)から立体的に見た外観全体にあると認めるのが相当であり、正面、背面、底面及び側面に現れる形状には格別の特徴がなく、それらには特に需要者・取引者の注意を惹く部分があるとは認められない。
ところで、本件登録意匠の基本的構成態様、すなわち二本のフレームを等間隔で配置したフレーム部と、このフレーム間にフレームに対し垂直方向に当接するステップ板を複数枚所定間隔で架け渡したステップ板部とからなる形状が、本件登録意匠の出願前からこの種物品の意匠として周知であったことは争いがない。しかし、意匠の構成のうちのある部分が周知である場合に、その構成のみを共通するにすぎない意匠を類似する意匠ということはできないが、そうであるからといって、他の構成とともに意匠の類否判断の一要素となりえないとする理由はなく、当該意匠を全体的に観察した場合に、それが看者の注意を惹くときには、なお右周知の部分も他の構成とともに意匠の類否判断の要素とすべきものと認められる。そして、車両用ブリッジは、極めて簡単な構成のものであって、この種物品の性質上、意匠を形成する各構成部分もそれらの本来の用途からみて必要不可欠のものがほとんどであるということができるから、意匠の類否判断の核心は、各部の具体的形状の異同に求めざるを得ない。
以上のとおりであるから、本件登録意匠と被告意匠において、需要者・取引者の注意を最も惹く部分は、結局、フレーム及びステップ板上面壁を上(平面視点付近)から立体的に見た外観全体に現れるその具体的形状にあるものと認めるのが相当である。そして、右具体的形状のうち、特にステップ板上面壁の縦方向の幅とステップ板相互間の間隔(空間部分)の比率、ステップ板上面壁幅とフレームの幅の比率、等の各部の配設態様は、車両用ブリッジの外観全体の堅牢性・安全性についての印象を大きく左右するものと考えられるから、要部からこれを除外することができないのは勿論、むしろ、これを重視して観察すべきものである。
三 類否についての判断
本件登録意匠及び被告意匠の要部(需要者・取引者の注意を最も惹く部分)を前項認定のとおりとする観点から、本件登録意匠と被告意匠の類否を考えると、一項に認定したとおり両意匠に差異があり、そのうち特に、フレーム及びステップ板の具体的形状及び配設状況の差異点<1><3>及び<5>のA・Bは顕著な差異であって、右の差異があることにより、本件登録意匠においては、フレームは横幅も上下の幅もともに幅広で(<5>B)、しかもステップ板相互間の間隔(空間部分)が広く(<5>A)、かつ、上面壁を縦方向に二つの面に区画するように、縦方向の両側縁とその中央に突条が設けられているだけであるため(<3>)、ステップ板とフレームは共に比較的肉厚な感じと安定感が強調されていて、上(平面視点付近)から立体的に見た形状は、全体としてずんぐりとした重量感を有し、重量車両の通行にも耐え得る頑丈さを備えているが、安全面において人の通行には不適なものとして印象づけられるのに対し、被告意匠においては、フレームは横幅も上下の幅もともに細幅で(<5>B)、しかもステップ板相互間の間隔(空間部分)が狭く(<5>A)、かつ、上面壁を縦方向に三つの面に区画するように、縦方向の両側縁に各一本と更にその間に二本の合計四本の突条が設けられている(<1>)ため、ステップ板とフレームは、共にスリムな感じと簡素さが強調されていて、上(平面視点付近)から立体的に見た形状は、全体として軽便で、安全面において人の通行にも適するものとの印象を与えるものである。そして、車両用ブリッジは、その用途及び使用態様に照すと、意匠的工夫をこらすにも一定の限度があり、各意匠がある程度の共通性を有するものとなることは避けられないから、このような意匠の類否を判断する当たっては、部分的、個別的にのみその類否を検討するのは相当でなく、全体的にみて、特に看者の目につきやすい部分について、対比意匠には見られない相当程度際立った美的差異感が生ずる場合は、これを非類似と認めるのが相当である。被告意匠と本件登録意匠の要部における右差異は、直ちに看者の目を引き付ける部分の顕著な相違点であり、全体的に観察しても、両意匠に別異の美感をもたらしているものというべきである。
四 原告主張について
原告は、本件登録意匠の要部が、前記(第三、一1(一))のステップ板についての、イ(二枚一組としたダブルタイプ状の隣接組み合わせ態様)、ロ(上面壁表面における全体の突起配列が形成する千鳥格子模様)、ハ(上面壁表面における個別突起の三角錐形状)、ニ(下面壁におけるロ・ハに対応した全体の凹状配列が形成する千鳥格子模様及び個別凹状の三角錐形状)の部分にあり、被告意匠はこれらの点で本件登録意匠と一致しているから本件登録意匠に類似する旨主張する。
しかし、イのステップ板に突条を設けてダブルタイプ状に区画する態様についても被告意匠は本件登録意匠と相違しているうえ(一項<3>)、車両用ブリッジにおいて滑り止めのための突条を設けることが特別な形態とも考えられず、滑り止めのため縁部に細長い突条を設けることは階段等においても古くから普通に見られるところであり、ニの下面壁部分における凹状の配設態様及び個別凹状の形状は、それ自体視覚上の印象が弱い上に、通常の使用状態において、上面壁の下に隠れて目視することが不可能であるから、ニの部分に意匠の特徴があるとはとうてい認めることができない。また、ロ、ハの点についても、<1> 本件登録意匠出願当時、タイヤの滑り止め効果等を狙って、梯子状ではない板状の道板の上面壁全体に、本件登録意匠の突起形状に類似した、多数のダイアモンド形突起を一定模様を描くように配置する意匠が知られていたし(一九七五年六月・住友軽金属工業株式会社発行のアルミ合金製車両積載用道板のパンフレット〔乙一〕)、本件登録意匠と同様の梯子状の車両用ブリッジのステップ板の上下両方向に三角錐状の打抜突起を設けた意匠も知られていたと推認できること(昭和五一年三月一五日・住友軽金属工業株式会社出願の意願昭五一-九〇〇六の車輌用道板材の意匠〔乙二〕と乙一の裏面上部)、また、被告製品の略三角形状突起は、その底面幅が広く、隆起部分の膨らみも緩やかで全体的に扁平な感じが強く、稜線も不明確にしか現れず、しかも平面視三角形の頂点部分は上面壁表面に殆ど埋没して消失しており、その形状において、本件登録意匠とは差異があるし、原告主張の千鳥格子状の突起配列も被告意匠とは差異がある(一項<4>)うえ、被告意匠ではフレーム両端部のステップ板に突起が全く形成されていない点でも差異がある(一項<6>)うえ、三項認定のとおり本件登録意匠及び被告意匠の要部において前記差異があり、これが両意匠に別異の美感をもたらしていると認めざるを得ないから、右原告主張の諸点を考慮しても、右原告主張は採用できない。
また、原告は、フレームの太さ(幅)、ステップ板上面壁の縦横の寸法比率及びステップ板相互間の間隔等の個別具体的製品仕様は、いずれも需要者・取引者において使用に際し、車両用ブリッジ上を昇降する対象車両の車種、タイヤ径及びタイヤ幅等を勘案して適宜取捨選択するものであり、それらは基本的構成態様である梯子形の全体形状に付随する付加的な構成に過ぎず、それによって全体的な美感に格別顕著な差異を生じさせるものではないから、被告意匠と本件登録意匠との間に、それらの部分について形状の微差があるからといって、彼我の意匠感に決定的な違いをもたらすものとはいえない旨主張する。しかし、型式の異なる多数の車両を一度に積載する場合などを想定すれば容易に分るように、その場合、車両用ブリッジの使用者が、いちいち種類の異なるブリッジを交換して使用するとは直ちに考えられず、その意味で、車両用ブリッジは、かなり汎用性を持つ製品であると認められるし、右製品仕様の差異は、前記したとおり、車両用ブリッジの与える堅牢性・安全性についての全体的意匠感にも大きな影響を及ぼす構成要素に関するものであるから、これをもって形状の微差と評価することはできない。したがって、右原告主張も採用できない。
五 結語
以上のとおりであるから、被告意匠は本件登録意匠に類似しているということはできず、したがって、被告物件を製造、販売することが本件意匠権を侵害するものであるとはいえない。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官辻川靖夫は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 庵前重和)
イ号物件目録
一 型式番号
NAS-0605M-25、NAS-0705M-25
二 意匠の構成
イ号物件は、別紙イ号物件図面(1)(2)記載の車両用ブリッジであって、次の構成からなる。
<1> 平行に配置された二本のフレーム間に、所定間隔でステップ板が架け渡されている。
<2> フレームは、断面がほぼコ字形を呈し、開口部が外側に向いて垂直壁が対向するようになっており、長さ方向、すなわち縦方向の両端部はその上面が傾斜になっている。
<3> 二本のフレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる突出壁が形成され、この突出壁にステップ板が載置されている。
<4> ステップ板は、上面壁と、その下面に、フレームに対して直交する方向、すなわち横方向に設けられた三つの脚片とからなる。
<5> ステップ板の上面壁及び下面壁の形状は、別紙イ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
<6> ステップ板の縦横の寸法比、ステップ板相互間の間隔、ステップ板の幅とフレームの幅との寸法比は、それぞれ別紙イ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
イ号物件図面(1)
<省略>
イ号物件図面(2)
<省略>
ロ号物件目録
一 型式番号
NAS-0605M-30、NAS-0705M-30
二 意匠の構成
ロ号物件は、別紙ロ号物件図面(1)(2)記載の車両用ブリッジであって、次の構成からなる。
<1> 平行に配置された二本のフレーム間に、所定間隔でステップ板が架け渡されている。
<2> フレームは、断面がほぼコ字形を呈し、開口部が外側に向いて垂直壁が対向するようになっており、長さ方向、すなわち縦方向の両端部はその上面が傾斜になっている。
<3> 二本のフレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる突出壁が形成され、この突出壁にステップ板が載置されている。
<4> ステップ板は、上面壁と、その下面に、フレームに対して直交する方向、すなわち横方向に設けられた三つの脚片とからなる。
<5> ステップ板の上面壁及び下面壁の形状は、別紙ロ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
<6> ステップ板の縦横の寸法比、ステップ板相互間の間隔、ステップ板の幅とフレームの幅との寸法比は、それぞれ別紙ロ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
ロ号物件図面(1)
<省略>
ロ号物件図面(2)
<省略>
ハ号物件目録
一 型式番号
NAS-0412M、NAS-0512M、NAS-0612M、NAS-0712M、NAS-0812M、NAS-0912M、NAS-0610M、NAS-0608M、NAS-0708M、NAS-0808M、NAS-0710M、NAS-0810M
二 意匠の構成
ハ号物件は、別紙ハ号物件図面(1)(2)記載の車両用ブリッジであって、次の構成からなる。
<1> 平行に配置された二本のフレーム間に、所定間隔でステップ板が架け渡されている。
<2> フレームは、断面がほぼコ字形を呈し、開口部が外側に向いて垂直壁が対向するようになっており、長さ方向、すなわち縦方向の両端部はその上面が傾斜になっている。また、フレームは、縦方向に二分割され、ヒンジ板によって折り畳み可能になっている。
<3> 二本のフレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる突出壁が形成され、この突出壁にステップ板が載置されている。
<4> ステップ板は、上面壁と、その下面に、フレームに対して直交する方向、すなわち横方向に設けられた三つの脚片とからなる。
<5> ステップ板の上面壁及び下面壁の形状は、別紙ハ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
<6> ステップ板の縦横の寸法比、ステップ板相互間の間隔、ステップ板の幅とフレームの幅との寸法比は、それぞれ別紙ハ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
ハ号物件図面(1)
<省略>
ハ号物件図面(2)
<省略>
ニ号物件目録
一 型式番号
NAS-0415M、NAS-0615M、NAS-0715M、NAS-0815M、NAS-0915M、NAS-1015M、NAS-1215M、NAS-0812M-38、NAS-0912M-38、NAS-1012M-38
二 意匠の構成
ニ号物件は、別紙ニ号物件図面(1)(2)記載の車両用ブリッジであって、次の構成からなる。
<1> 平行に配置された二本のフレーム間に、所定間隔でステップ板が架け渡されている。
<2> フレームは、断面がほぼコ字形を呈し、開口部が外側に向いて垂直壁が対向するようになっており、長さ方向、すなわち縦方向の両端部はその上面が傾斜になっている。
<3> 二本のフレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる突出壁が形成され、この突出壁にステップ板が載置されている。
<4> ステップ板は、上面壁と、その下面に、フレームに対して直交する方向、すなわち横方向に設けられた三つの脚片とからなる。
<5> ステップ板の上面壁及び下面壁の形状は、別紙ニ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
<6> ステップ板の縦横の寸法比、ステップ板相互間の間隔、ステップ板の幅とフレームの幅との寸法比は、それぞれ別紙ニ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
ニ号物件図面(1)
<省略>
ニ号物件図面(2)
<省略>
ホ号物件目録
一 型式番号
NAS-0820M、NAS-0920M、NAS-1020M、NAS-1220M
二 意匠の構成
ホ号物件は、別紙ホ号物件図面(1)(2)記載の車両用ブリッジであって、次の構成からなる。
<1> 平行に配置された二本のフレーム間に、所定間隔でステップ板が架け渡されている。
<2> フレームは、断面がほぼコ字形を呈し、開口部が外側に向いて垂直壁が対向するようになっており、長さ方向、すなわち縦方向の両端部はその上面が傾斜になっている。
<3> 二本のフレームの対向する垂直壁には、上下方向の中央部よりもやや下方位置に縦方向に延びる突出壁が形成され、この突出壁にステップ板が載置されている。
<4> ステップ板は、上面壁と、その下面に、フレームに対して直交する方向、すなわち横方向に設けられた三つの脚片とからなる。
<5> ステップ板の上面壁及び下面壁の形状は、別紙ホ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
<6> ステップ板の縦横の寸法比、ステップ板相互間の間隔、ステップ板の幅とフレームの幅との寸法比は、それぞれ別紙ホ号物件図面(1)(2)記載のとおりである。
ホ号物件図面(1)
<省略>
ホ号物件図面(2)
<省略>
意匠公報(1) 日本国特許庁
昭和55.9.27発行 意匠公報(S) 28-80
540549 出願昭53.9.13 意願昭53-39169 登録昭55.7.25
創作者 鈴木格二 浜松市新町13番地
同 内山隆 掛川市掛川1234番地
意匠権者 鈴木格二 浜松市新町13番地
同 内山隆 掛川市掛川1234番地
代理人弁理士 岡田英彦
意匠に係る物品 車両用ブリツジ
説明 背面図は正面図と対称にあらわれる
<省略>
意匠公報(2) 日本国特許庁
平成2年(1990)4月27日発行 意匠公報 (S)
G1-020類似
540549の類似1 意願 昭63-33360 出願昭63(1988)8月25日
登録 平2(1990)1月31日
創作者 内山隆 静岡県掛川市掛川1234番地
創作者 鈴木格二 静岡県浜松市新町13番地
意匠権者 内山隆 静岡県掛川市掛川1234番地
意匠権者 鈴木格二 静岡県浜松市新町13番地
代理人 弁理士 箕浦清
審査官 伊藤栄子
意匠に係る物品 車両用ブリツジ
説明 背面図は正面図と対称にあらわれる。
<省略>
意匠公報
<省略>
意匠公報
<省略>